部屋は高層階にあり、エントランスはオートロック。
野良猫が入り込めるはずがないのだが、彼は、そこに居た。
よく見ればキレイな猫で、人を怖がる様子もない。
もしかしたら捨てられたのか?逃げ出したのか?迷子なのか?
はたまた住人の飼い猫が俺の部屋を別宅に決めたのか?
とにかく彼は我物顔で、俺の部屋で暮らし始めた。
「ニャーニャー俺腹減ってんだ。何か食いモンよこせよ。但し、不味いものは出すなよ」
「すげー退屈。かまってくれよ。俺楽しい遊び色々知ってるんだぜ?」
彼は甘え上手でこちらの気分も状況もお構いなしだった。
彼は自分の欲求を満たさんが為に生きているが故に、極めて欲望に忠実だった。
従って、その気のない彼にしつこくしようものなら…。
彼はキレイなだけではなく、爪と牙を持つ獣であることを忘れてはならない。
「天麻、オマエ何してるんだ?」
「………妄想………してる?」
古白は黒猫とじゃれている。
どちらが遊んでやっているのか、もらっているのかわからない。
「なーなー猫のタマタマって毬藻みたいでかわいいなぁ」
言いながら黒猫をつつく。
「やめろ。俺の猫だぞ」
「こいつは気にしてねーよ」
…俺の猫…自分の言葉を反芻した。
黒猫が俺を飼い主、主人だと思っているフシはどこにも見当たらない。
彼はそうしたいから、そうしているだけなのだ。
「ところで、コイツの名前何ての?」

「名前はまだない」

ある日帰宅すると黒猫の姿がなかった。
呼ぼうにも名前がない。
部屋の鍵は全て掛かっていた。

黒猫は見ていた。
飛ぶ鳥 降る雨 流れる雲 染まる街
色を変える太陽と月と星と暗闇と輝きを
あらゆる無限を
「猫がいなくなった」
現れた時と同じように、唐突に何も告げず。

「よぉ天麻 俺がいなくて寂しいか?悪いな。俺は翔びたくなったんだ。
俺を閉じ込めようたって無駄だ。
俺の住処は全ての夜。
俺に名前があるとすれば、それは自由。
俺たちは闇を統べし者、即ち猫。
いつの日か人間が猫に進化した時分かるだろう。
本物の自由がどんなものなのか。

もしかしたら、また会うこともあるかもしれない。
でも期待はするな。
時の支配すら及ばない俺たち猫に約束は不要だ。
だから別れの言葉もないのさ」

黒猫は夜の彼方でディーバとファックしてるのかもな…。